「うまーーーーーい!!」
芭蕉と曽良は、師弟並んで縁側に座り、二人でスイカを食べていた。
ご近所さんからスイカを半分おすそ分けしてもらったはいいが、さすがに一人暮らしで半分はきついということで、弟子の曽良を呼んだのだ。
たらいに張った水に足首まで浸かり、首には濡らして絞った冷やし手ぬぐい、左手にはうちわ、右手には三角に切ったスイカ。
(完璧だ……完璧すぎる……!)
用意した納涼技の数々に、満足して打ち震える芭蕉。
隣の曽良は、不審な様子を見せる師匠になど見向きもせず、黙々と手に持ったスイカを食べている。
横目でその様子を眺めて、芭蕉はうちわの風が弟子にも当たるように、微妙に角度を調節した。
自らも手に持ったスイカにかぶり付く。
しゃくり、と涼やかな歯ごたえ、甘い果汁が口内に広がる。
芭蕉は、三角に切ったスイカの頂点を食べる時が一番好きだ。皮に近づくにつれ、種も増えるし味も水っぽく素っ気なくなってくる。
「それにしても、スイカって食べにくいよねえ」
口の中の種をペッと皿に吐き出しつつ、芭蕉がぼやいた。ちらりと師匠を見やる曽良。
「なんでこんなに種多いんだよ!!種さえなければもっと美味しく食べれるのにさあ。無視するには気になる大きさだし。しかも、メロンみたいに纏まって入ってるんじゃなくてばらけて入ってるもんだからいちいち吐き出したりほじくったりしなきゃいけないしさ。めんどくさいよねえ。いっそ、真ん中にドーンとでっかい一粒の種にしてくれてたら楽なのにね」
「まあ、面倒ではありますが」
ぷっと皿に種を吹いて、曽良が答える。
「私なんて、もうすでに何粒か飲み込んじゃったよ」
「では今年の夏中に、その種は芭蕉さんの胃袋に着床し、めりめりと胃壁を割って根を伸ばし、青々と茂った茎や葉を口から飛び出させ、しまいにはでっかいスイカで内部から芭蕉さんを破壊するんですね」
「怖いよ!!なんでそんな残酷な描写するの!!?」
ひええと青くなって震える芭蕉。
ある意味今日一番の納涼となった。
「種がばらけているのもたくさんあるのも、それだけ繁殖するのに有利だからです。生命力が強いということでしょう」
「そうだけどさあ」
めんどいもんはめんどいのだ。
芭蕉は、口に含んだ種を一粒、思いっきり庭に噴き出した。放物線を描き、それほど遠くない場所へ落ちる種。
「行儀悪いですよ」
「まあまあ。ひょっとしたら芽が出て、来年の夏にはスイカ畑になってるかもよ?そうしたら毎年ただでスイカ食べ放題だ!」
それだけ生命力の強いスイカなら、それも夢ではないかもしれない。
芭蕉は、自分の庭に大きなスイカがごろごろしている光景を思い描いた。
「曽良君!どっちが遠くに飛ばせるか競争だ!」
「一人でやっててください」
曽良は、しゃくりとまた一口スイカを食べた。芭蕉は、黙って隣でぷっと種を吐き出す。
意外に甘いもの好きなこの弟子が、スイカも好んで食べることを知っている。
来年も同じようにスイカを並んで食べるために、庭をスイカ畑にしておくというのもいいかもしれない。
スイカ師弟。
海の日関係ない。
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