「10代目!!」
「ひっ」
必死の形相でつめよられて、臆病根性が心底染み付いているツナは反射的に怯えた。
いつまでたっても慣れないものは慣れない。
今日も今日とて、悪びれた様子もなく大幅に遅刻してきた獄寺は、昼食を食べるために屋上に上がり二人っきりになると待ってましたとばかりにツナにつめよった(ちなみに山本は野球部のミーティングで今日の昼休みは不在)。
「ど、ど、どうしたの獄寺くんっ!?」
思わずすがるように本日の昼メシである購買のパンを抱きこむ。
ああ、そのパンが羨ましい……で、なくて。
「俺、昨日からずっと悩んでたんスが、」
「10代目が、俺がダイナマイトを使うとなんだか少し悲しそうなお顔をされているような気がして…」
えーーーーーー今頃気付いたのーーーーーっ!?
というツナの心の叫びは置いといて。
目の前で獄寺はがっくりとうなだれた。
「俺に何かご不満がおありでしたら、是非おっしゃってください!!直すように努力します!いや、直してみせます!!」
「そ、そんな獄寺くん……」
落ち込む獄寺に焦るツナだったが、
(はっ………ひょ、ひょっとして今こそ獄寺くんに日本の常識というものを分かってもらうチャンス!?)
キュピーンとその考えが天啓のように浮かんだ。
ごくり、と無意識にツバを飲み込む。
「ご、獄寺くん。ええと、ね。君がいつも俺を守ろうとしてくれてるのは分かる。うん、その気持ちは嬉しいんだ」
その言葉を受けて、そろそろと獄寺が顔を上げた。
「でもね、だからってそんなすぐに暴力的な行為にでなくてもいいと思うんだ。特に街中でダイナマイト使ったりとかね!!ここは日本だし!日本でそんなほいほい日常で火薬使うことなんてある特定の職業の人くらいしかいないから!」
思わず説得するセリフに力がこもる。
ツナの脳裏に浮かんでいるのは、今まで行われてきた獄寺の非常識な行動のアレやソレだ。
そのたびに自分がこうむってきた心痛を思うと涙が出そうになる。
獄寺は、眉を寄せると、
「しかし……俺がダイナマイトを使うのは、日本だからこそ、とも言えるんス」
「へ?」
「確かに、日本では火薬を使うことは滅多にありません。というか、イタリアでも武器にダイナマイトを使うやつはそんなにいませんでした。扱いやすい武器でもありませんしね。だからこそ、の爆薬なんです。誰もがそんなものを使うはずがない、という盲点をつくことで、相手の隙をつくことができるんス。しかも、威力がでかい分いっきにかたをつけられる。俺だってナイフや銃が不得手なわけじゃないです。でもあえてダイナマイトを使うのは、そういう理由と……やはり慣れ親しんでいるから、体になじむというか…一番得意なんス」
(そういう話をしてるんじゃないーーーーーーーーーっっ)
思わず冷や汗を流すツナ。
真面目に説明した獄寺は、しかしもじもじとツナを見上げた。
「あ、でも10代目がおっしゃるんでしたら、もちろんナイフや銃に変えても……」
「いやっそれはいいから!!」
青くなって全力で否定する。
ナイフや銃なんて、むしろ視覚的にはダイナマイトより生々しくて物騒な気がして心臓に悪い。
「うーーんと、そういうんじゃなくて……」
困ったツナが視線を落とすと、目に獄寺の手が映った。
「………俺のために、そんな危険なことしなくていいというか……してほしくないというか……」
獄寺はキョトンとすると、
「……でも、俺は貴方をお護りするために、いますから。貴方を傷つけるものは許せないし許さない。貴方に傷ひとつでもつくくらいなら、俺が傷ついた方が全然マシです」
言い終えて、獄寺は後悔した。
今言ったことは、心の底からの本音だったのだが、それを聞いたツナはまたあの悲しそうな顔をしたのだ。
(俺の最低野郎……)
10代目にこんな顔をさせて自分の口よ呪われてしまえ。
でも、どこが悪かったのか分からない。
混乱する獄寺にツナはそっとため息をついた。
「………人を傷つけると、その人に恨まれるでしょ。俺は、君にそんな目にあってほしくないんだ。特に俺なんかのためになんて、ダメだよ」
(こんな綺麗な指の人に、そんなことをしてほしくない)
恥ずかしくて、これは口には出せないけど。
人を傷つけたり、人に恨まれたり。
今まではどうだったか知らないけど、せめてこれからは。日本という場所で、俺の近くでそんな目にあってほしくない。
ほろり、と獄寺の目から涙が一粒こぼれたのを見て、ツナは仰天した。
「ご、獄寺くんっ!?」
一粒こぼれた涙は、二粒、三粒と増えていき、しまいにはぶわっと滂沱の涙を流しだした。
「じゅうだいめぇ……」
「ど、ど、どうしちゃったの!?え、お、俺のせいっ!?」
あわあわとツナは慌てて立ったり座ったり。
(10代目は、神様みたいな人だ)
神様みたいに優しい。
獄寺は別に神様を信じているわけではない。といか、いてもいなくてもどうでもいい。
けれど、代わりに、獄寺にとってはツナが神様みたいな存在だった。
だって、今まで生きてきて、こんなに優しいことを言ってくれた人はいない。
誰もいなかった。
結局その後、泣き出す獄寺を宥めたり、山本が乱入してきたりで獄寺が本当に納得してくれたのかは分からなかったが。
後日。
やはりいつもどおりに不良どもを吹き飛ばす獄寺に、ツナが絶望したり、でもちょっぴりだけ獄寺の堪忍袋の緒が伸びたような、火薬の量が少ないような気がしないでもなかったり。
そんなある日のできごと。
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