日々たれながし
本誌ネタバレありです!コミックス派の方はご注意。
曾孫の名前が分からないのでやっぱり書くの難しい…そして性格が分からない。
メリークリスマスイブです。年内に書けてよかった。
『おばあさま!またあの話、してください』
『あら』
僕がねだると、曾祖母は、ふんわりと微笑んでくれた。
『あなたは、本当にナイトの話が好きね』
『うん!』
あの頃、僕はしょっちゅう曾祖母から、「彼」の話を聞きたがった。
幼い曾祖母と、家族と、ナイトの話。
曾祖母が子ども時代をすごした、遠い異国の話は、彼女の中でまったく色あせない思い出なのだろう。
話を聞く僕の想像の中で彼の地は鮮やかに蘇った。
僕にとっては、子守唄よりも身近で、どんなおとぎ話よりも「彼」の話がわくわくしたものだった。
まだ見ぬ人。
今、遠い異国の地で生きている人。
「だから、僕にとっては光也さんはヒーローみたいな人なんです」
えへへ、と照れ笑いをすると、光也さんは「はあっ!?」と素っ頓狂な声を出した。
ああ、困った。
光也さんがかわいらしい人で、心がすごくドキドキしてうきうきして、困った。
すっと会いたかった憧れの人は、話で聞いていたとおり元気な人だった。
でも、元気だけでなくて、どこか憂いを含んだような深い表情もときどき見せる。
相馬家の玄関前で、初めて写真じゃなくて本人と出会えた。
第一印象は綺麗な人だな、だった。
同じ年の、しかも男に抱く感想じゃないというのは分かっていたけど。
初めて僕を見たときの、驚愕したような顔も、曾祖母とその兄さんの話をして突然泣き出してしまった顔も。
その後、赤くなった目でくしゃっと笑って、バイオリンを弾いてくれた姿も。
どれも綺麗だと思った。
あと、………かわいいな、と。
僕があんまりにも憧れのキラキラした目で見たせいだろうか、光也さんは戸惑った顔をして、
「あ、あのさー……亜伊子からどんな話聞いたか知らないけど。俺は、そんなんじゃないから……」
「そうですか?僕は、思ったとおりの人だったと思って、感動してるんですが」
「ううう~…もう、そんな目で見るのはやめてくれ~」
光也さんは心底弱ったような顔で視線を逸らした。
少し頬が赤い気がする。
ああ、ドキドキする。
本当に、本当に、本物の光也さんだ。
瞳が、なにより生き生きして輝いてて。惹かれずにはいられない。
だから。
「光也、さん」
そっと呼びかけると、ピクリと彼の肩が揺れた。
僕は、薄く微笑む。
「僕は、……仁さんに似ていますか?」
「い、や……さっきも言ったけど……見かけはあんまり。でも、声が……」
僕の声が、曾祖母の兄さんに、似ているというのは聞いていた。
これは、僕の武器。
彼に近付くための、武器。
光也さんが、ゆっくりと振り向いた。
彼の瞳の、その奥まで見たい。
「じゃあ、性格とかはどうですか?」
「え?………うーーん、どうかな。あんまりまだあんたのこと、知らないけどさ。似てないんじゃないかな……仁は、もっとこうなんていうか…王様っぽい感じ?」
「あはは。僕は、のんびりした性格なので~」
でも、きっと彼と僕とは、似ているのだ。
根本的なところで。
はあっと、光也さんが何か溜め込んでいたものを吐き出すように、息をついた。
「……ありがとな、こんなとこまで来てくれて」
「いえ、僕は」
「あんたと話せてよかった。なんか、……ちょっと救われた気がする」
光也さんは、僕が手渡したチェスの駒を、どこか微笑んでいるような優しい表情で見下ろした。
黒のナイト。
曾祖母の兄のお守りであり、彼の亡き後は曾祖母の。そしてついさっきまでは僕のお守りだった。
今は、彼の手の中だ。
「あんたが帰ってからもさ。あんたが元気でいることを願うよ。どうか、仁や亜伊子や…みんなの分も幸せになってくれよ」
「え、」
あれ、まだ言ってなかったっけ。
やはり僕は随分のんびりしているようだ。
「ありがとうございます」
僕は、ニッコリ微笑んだ。
まあ、いいか。明日になったら分かることだし。
今は、光也さんが言ってくれた嬉しい言葉を、ゆっくりと噛み締めよう。
翌日。
「あー、今日は、こないだから言っていた、イタリアからの留学生を紹介する」
「生方と言います。どうぞ、みなさんよろしくお願いします」
わー!カッコイイ。とか、日本語上手だな…!とか。
ざわざわとざわつく教室内。
そのとき、
ガッタン!!
教室の隅から、誰かが思いっきりこけたような音が響いた。
僕は、そちらを向いて、ぽかんとした顔の「彼」を見つけて満面の笑みを浮かべた。
僕は、もうどれだけの人の中からでも、彼を見つけることができる。
彼も、僕のことを知ってくれている。
僕たちは、出会ったのだ。
これから始まるのは、僕たちの物語。
曾孫の名前が分からないのでやっぱり書くの難しい…そして性格が分からない。
メリークリスマスイブです。年内に書けてよかった。
『おばあさま!またあの話、してください』
『あら』
僕がねだると、曾祖母は、ふんわりと微笑んでくれた。
『あなたは、本当にナイトの話が好きね』
『うん!』
あの頃、僕はしょっちゅう曾祖母から、「彼」の話を聞きたがった。
幼い曾祖母と、家族と、ナイトの話。
曾祖母が子ども時代をすごした、遠い異国の話は、彼女の中でまったく色あせない思い出なのだろう。
話を聞く僕の想像の中で彼の地は鮮やかに蘇った。
僕にとっては、子守唄よりも身近で、どんなおとぎ話よりも「彼」の話がわくわくしたものだった。
まだ見ぬ人。
今、遠い異国の地で生きている人。
「だから、僕にとっては光也さんはヒーローみたいな人なんです」
えへへ、と照れ笑いをすると、光也さんは「はあっ!?」と素っ頓狂な声を出した。
ああ、困った。
光也さんがかわいらしい人で、心がすごくドキドキしてうきうきして、困った。
すっと会いたかった憧れの人は、話で聞いていたとおり元気な人だった。
でも、元気だけでなくて、どこか憂いを含んだような深い表情もときどき見せる。
相馬家の玄関前で、初めて写真じゃなくて本人と出会えた。
第一印象は綺麗な人だな、だった。
同じ年の、しかも男に抱く感想じゃないというのは分かっていたけど。
初めて僕を見たときの、驚愕したような顔も、曾祖母とその兄さんの話をして突然泣き出してしまった顔も。
その後、赤くなった目でくしゃっと笑って、バイオリンを弾いてくれた姿も。
どれも綺麗だと思った。
あと、………かわいいな、と。
僕があんまりにも憧れのキラキラした目で見たせいだろうか、光也さんは戸惑った顔をして、
「あ、あのさー……亜伊子からどんな話聞いたか知らないけど。俺は、そんなんじゃないから……」
「そうですか?僕は、思ったとおりの人だったと思って、感動してるんですが」
「ううう~…もう、そんな目で見るのはやめてくれ~」
光也さんは心底弱ったような顔で視線を逸らした。
少し頬が赤い気がする。
ああ、ドキドキする。
本当に、本当に、本物の光也さんだ。
瞳が、なにより生き生きして輝いてて。惹かれずにはいられない。
だから。
「光也、さん」
そっと呼びかけると、ピクリと彼の肩が揺れた。
僕は、薄く微笑む。
「僕は、……仁さんに似ていますか?」
「い、や……さっきも言ったけど……見かけはあんまり。でも、声が……」
僕の声が、曾祖母の兄さんに、似ているというのは聞いていた。
これは、僕の武器。
彼に近付くための、武器。
光也さんが、ゆっくりと振り向いた。
彼の瞳の、その奥まで見たい。
「じゃあ、性格とかはどうですか?」
「え?………うーーん、どうかな。あんまりまだあんたのこと、知らないけどさ。似てないんじゃないかな……仁は、もっとこうなんていうか…王様っぽい感じ?」
「あはは。僕は、のんびりした性格なので~」
でも、きっと彼と僕とは、似ているのだ。
根本的なところで。
はあっと、光也さんが何か溜め込んでいたものを吐き出すように、息をついた。
「……ありがとな、こんなとこまで来てくれて」
「いえ、僕は」
「あんたと話せてよかった。なんか、……ちょっと救われた気がする」
光也さんは、僕が手渡したチェスの駒を、どこか微笑んでいるような優しい表情で見下ろした。
黒のナイト。
曾祖母の兄のお守りであり、彼の亡き後は曾祖母の。そしてついさっきまでは僕のお守りだった。
今は、彼の手の中だ。
「あんたが帰ってからもさ。あんたが元気でいることを願うよ。どうか、仁や亜伊子や…みんなの分も幸せになってくれよ」
「え、」
あれ、まだ言ってなかったっけ。
やはり僕は随分のんびりしているようだ。
「ありがとうございます」
僕は、ニッコリ微笑んだ。
まあ、いいか。明日になったら分かることだし。
今は、光也さんが言ってくれた嬉しい言葉を、ゆっくりと噛み締めよう。
翌日。
「あー、今日は、こないだから言っていた、イタリアからの留学生を紹介する」
「生方と言います。どうぞ、みなさんよろしくお願いします」
わー!カッコイイ。とか、日本語上手だな…!とか。
ざわざわとざわつく教室内。
そのとき、
ガッタン!!
教室の隅から、誰かが思いっきりこけたような音が響いた。
僕は、そちらを向いて、ぽかんとした顔の「彼」を見つけて満面の笑みを浮かべた。
僕は、もうどれだけの人の中からでも、彼を見つけることができる。
彼も、僕のことを知ってくれている。
僕たちは、出会ったのだ。
これから始まるのは、僕たちの物語。
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