忍者ブログ
MASTER →  ADMIN / NEW ENTRY / COMMENT
日々たれながし
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

本誌ネタバレありです!コミックス派の方はご注意。
曾孫の名前が分からないのでやっぱり書くの難しい…そして性格が分からない。
メリークリスマスイブです。年内に書けてよかった。



『おばあさま!またあの話、してください』
『あら』
僕がねだると、曾祖母は、ふんわりと微笑んでくれた。
『あなたは、本当にナイトの話が好きね』
『うん!』
あの頃、僕はしょっちゅう曾祖母から、「彼」の話を聞きたがった。
幼い曾祖母と、家族と、ナイトの話。
曾祖母が子ども時代をすごした、遠い異国の話は、彼女の中でまったく色あせない思い出なのだろう。
話を聞く僕の想像の中で彼の地は鮮やかに蘇った。
僕にとっては、子守唄よりも身近で、どんなおとぎ話よりも「彼」の話がわくわくしたものだった。
まだ見ぬ人。
今、遠い異国の地で生きている人。

「だから、僕にとっては光也さんはヒーローみたいな人なんです」
えへへ、と照れ笑いをすると、光也さんは「はあっ!?」と素っ頓狂な声を出した。
ああ、困った。
光也さんがかわいらしい人で、心がすごくドキドキしてうきうきして、困った。
すっと会いたかった憧れの人は、話で聞いていたとおり元気な人だった。
でも、元気だけでなくて、どこか憂いを含んだような深い表情もときどき見せる。
相馬家の玄関前で、初めて写真じゃなくて本人と出会えた。
第一印象は綺麗な人だな、だった。
同じ年の、しかも男に抱く感想じゃないというのは分かっていたけど。
初めて僕を見たときの、驚愕したような顔も、曾祖母とその兄さんの話をして突然泣き出してしまった顔も。
その後、赤くなった目でくしゃっと笑って、バイオリンを弾いてくれた姿も。
どれも綺麗だと思った。
あと、………かわいいな、と。
僕があんまりにも憧れのキラキラした目で見たせいだろうか、光也さんは戸惑った顔をして、
「あ、あのさー……亜伊子からどんな話聞いたか知らないけど。俺は、そんなんじゃないから……」
「そうですか?僕は、思ったとおりの人だったと思って、感動してるんですが」
「ううう~…もう、そんな目で見るのはやめてくれ~」
光也さんは心底弱ったような顔で視線を逸らした。
少し頬が赤い気がする。
ああ、ドキドキする。
本当に、本当に、本物の光也さんだ。
瞳が、なにより生き生きして輝いてて。惹かれずにはいられない。
だから。

「光也、さん」
そっと呼びかけると、ピクリと彼の肩が揺れた。
僕は、薄く微笑む。

「僕は、……仁さんに似ていますか?」
「い、や……さっきも言ったけど……見かけはあんまり。でも、声が……」
僕の声が、曾祖母の兄さんに、似ているというのは聞いていた。
これは、僕の武器。
彼に近付くための、武器。
光也さんが、ゆっくりと振り向いた。
彼の瞳の、その奥まで見たい。

「じゃあ、性格とかはどうですか?」
「え?………うーーん、どうかな。あんまりまだあんたのこと、知らないけどさ。似てないんじゃないかな……仁は、もっとこうなんていうか…王様っぽい感じ?」
「あはは。僕は、のんびりした性格なので~」
でも、きっと彼と僕とは、似ているのだ。
根本的なところで。

はあっと、光也さんが何か溜め込んでいたものを吐き出すように、息をついた。
「……ありがとな、こんなとこまで来てくれて」
「いえ、僕は」
「あんたと話せてよかった。なんか、……ちょっと救われた気がする」
光也さんは、僕が手渡したチェスの駒を、どこか微笑んでいるような優しい表情で見下ろした。
黒のナイト。
曾祖母の兄のお守りであり、彼の亡き後は曾祖母の。そしてついさっきまでは僕のお守りだった。
今は、彼の手の中だ。
「あんたが帰ってからもさ。あんたが元気でいることを願うよ。どうか、仁や亜伊子や…みんなの分も幸せになってくれよ」
「え、」
あれ、まだ言ってなかったっけ。
やはり僕は随分のんびりしているようだ。
「ありがとうございます」
僕は、ニッコリ微笑んだ。
まあ、いいか。明日になったら分かることだし。
今は、光也さんが言ってくれた嬉しい言葉を、ゆっくりと噛み締めよう。

翌日。

「あー、今日は、こないだから言っていた、イタリアからの留学生を紹介する」
「生方と言います。どうぞ、みなさんよろしくお願いします」
わー!カッコイイ。とか、日本語上手だな…!とか。
ざわざわとざわつく教室内。
そのとき、
ガッタン!!
教室の隅から、誰かが思いっきりこけたような音が響いた。
僕は、そちらを向いて、ぽかんとした顔の「彼」を見つけて満面の笑みを浮かべた。
僕は、もうどれだけの人の中からでも、彼を見つけることができる。
彼も、僕のことを知ってくれている。
僕たちは、出会ったのだ。
これから始まるのは、僕たちの物語。
PR
≪  125  124  123  122  121  120  119  118  117  116  115  ≫
HOME
Comment
この記事にコメントする
お名前:
URL:
メール:
文字色:  
タイトル:
コメント:
パス:
Trackback
この記事にトラックバックする:
≪  125  124  123  122  121  120  119  118  117  116  115  ≫
HOME
カレンダー
12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
リンク
フリーエリア
最新コメント
[05/13 Backlinks]
[06/25 リョウ]
[01/05 雛]
[11/17 杏]
[05/19 世葉]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
石見志月
性別:
女性
バーコード
ブログ内検索
カウンター
カウンター
忍者ブログ [PR]