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日々たれながし
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本誌最終回ネタバレありあり。
捏造ありあり。
戦地の情景とか適当すぎ。恥。


今日も、夜が来る。


見張りの兵士に、「少し歩いてくる」と告げて、私はぶらぶらとテントを後にした。
歩いてくるといっても、ほんの少し先の野営地の端までだ。
吐く息が、僅かに白い。
戦場は、昼はうんざりするくらい蒸し暑いのに、夜は驚くほど冷え込む。

ブーツが、土を踏む音が、やけに響く。
まだ起きている人は多いだろうに、誰もが息を殺しているようだ。
空気中にピリピリとした緊張感がただよっている気がする。
それとも、緊張を通り越したふわふわと心浮き立つような高揚感か。
今日も、人が死んだ。
腹に打ち込まれた銃弾が致命傷だ。
自分より8つも下の男で、素直な目をした奴だった。

野営地の端から、荒れた大地を見渡す。
風が吹いた。
強い風は、戦場の音も、匂いも、何もかもを連れて、どこまでも吹き抜けていってくれる。
自分の体に染み付いた、罪をも、風が通り抜けたこの瞬間だけは、消えてくれたように錯覚する。
そんなはずはないのだが。
服の下から、首元にぶらさげていた紐をひっぱりだす。
紐の先に結ばれた袋を広げて、中から私の「お守り」を取り出した。
黒のナイト。
僕の、ナイトだ。

強く握り締める。

毎晩、このチェスの駒との一時を過ごすのが、私の日課になっていた。
この年にもなって気恥ずかしいというか、おかしな話だが。
そうすることで「勇気」をもらえる気がするのだ。
なんの変哲もないチェスの駒を大事にしている私に、不思議そうな目を向ける者もいた。
けれど、私にしてみればなんの不思議なことでもない。
ある者は、十字架に。
ある者は、家族の写真に。
それぞれ、祈りを捧げている。
私には、それが黒のナイトだったというだけだ。
手の中に握りこんでいると、ほんのり駒が暖かくなってくる。
そうすると、落ち込んでいるときなどは、「彼」の声が聞こえてくる気がするのだ。

『なに落ち込んでやがんだよ、仁っ!らしくねぇ顔してさ。俺の知ってるお前は、もっとしたたかで、いつでも偉そうだったぜ!?』

くすり、と唇の端が上がる。
おかしな話だ。
彼はまだ、この世に生まれてさえいないというのに。
それでも、確かにこの心は、温かく、「勇気」がわいてくるのだ。

空を見上げると、まさに降ってきそうなほどの、満点の星空。
戦場の空。
人を憎んで、怨んで、
苦しみ、涙し、
断末魔の声をあげて息絶えていく空だ。
ここは地獄だろうか?
けれど、見上げた空はどこまでも澄んで美しい。
まるで、昔、お前と見上げたあの星空のようだ。
いや、きっとそうなのだろう。
この空は、東京の、あの街に続いている。
そして、未来でも、変わらずに輝き続けているのだ。
この星空は、お前に届いているはずだ。

光也、今僕の世界には、お前はいない。
どうしようもない時代だ。
けれど、この世界は、「いつか大好きな人が生まれてくる世界」だ。
僕はそのことを知っている。
だからこそ、僕はこの世界を守り。愛おしいと思えるのだ。

黒のナイトに、そっと一つ唇を落とすと、仁は踵を返した。
背には、変わらず輝く、満天の星。

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