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日々たれながし
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案の定、冬編の続きは間に合わなかったので、予告した通り以前友人にメールで送った冥界小話を置いておきます~
篁さんもいます。すいません。
夕方から、しn~むにゃむにゃ旅行に出発します。
あばばばばばbどうしよどうしよひょーーー
飛ぶぜ…おいら飛ぶぜ…っ!

拍手ありがとうございました!!
とってもとっても励みになります。読んでもらえたんだな、しかもちょっとでも喜んでもらえたんだなあ~と思うとホッとします。ありがとうございました!




『花を植える』


『何の変哲も無い日々』という言葉を地でゆく冥界。
今日もまた、世もなべてこともなしという表情で、篁は閻魔庁の廊下を歩いていた。


今はちょうど閻魔が昼の『お務め』を行う時間であり、他の職員にとっては小休憩できる時でもある。『人を裁く罪』に対する罰を受ける時。
篁は資料室から午後の裁きの為の資料を持ってくる途中だった。
別に第二秘書である篁がわざわざ用意しなくてもよいのだが、暇潰しも兼ねて自分で動くことにしたのだ。唯一の上司のことを考えるとなんとなくじっとしていられなかったということもあるし、第一秘書の姿が見えずにつまらなかったということもある。

ついでに遠回りでもしようと思い、普段通らない閻魔庁の外側の廊下を通って執務室へ戻ることにした。壁がなく、手すりだけがあるこの廊下からは、冥界のがらんとした、荒涼たる大地がよく見える。
何の気なしに歩いていると、ふと目の端に酷く心に引っ掛かる色が映って、篁は足を止めた。
数歩戻って欄干の向こうを覗き込む。
「………何をしてるんだい、鬼男殿」
「!?」
急に声を掛けられ、驚いたのか第一秘書の肩がびくりと動いた。
「た、篁さんっ?」
焦ったように顔を上げたのは、休み時間になるなり姿を消した鬼男だった。
地面に蹲っていた鬼男は、何やら土を弄っていたらしい。よく見るとその両手は泥で汚れてしまっている。
「……畑仕事?」
篁は思わず目を瞬かせて尋ねた。
鬼男の足元には数メートル四方に渡って土を掘り返したような跡がある。
「いや、あの、これはっ」
顔を赤らめ慌てて手を横に振る鬼男。だが、すぐに諦めたように肩の力を抜いた。
「ううう……何でこんなとこ通ってるんですか、篁さん……」
「いや、たまたま……ひょっとして秘密の場所だった?」
「秘密というか……」
鬼男は困ったように足元を見下ろした。
「……ええと、花でも植えようかと思って……」
「花?」
首を傾げた篁に鬼男が差し出した手のひらの上には数粒の小さな種が転がっていた。
「大王には黙ってて下さいね」
言うと鬼男は再び蹲り、赤茶けた土の中に花種を埋めた。
そんな鬼男を見て篁は内心首を傾げる。
花が育つには冥界は厳しい場所だ。
三途の川の付近なら花畑も広がっているけれど、ここいらは雨が降ることなどなく、こまめに水やりをしなければならない。
土も固いし、お世辞にも園芸に向いた環境だとは言えないだろう。
そんな篁の訝しげな気持ちが伝わったのか、鬼男は苦笑するように唇を緩めた。
「……なんか、悔しかったので」
呟き、荒れた大地を爪先で掘る。
「冥界は、大王そのものですから。あんなにボケナスで、能天気で、いっつも腹立つくらいヘラヘラしてるくせに、一度目を転じてみれば見渡す限り何もない土地が広がっている。それが、何となく……」
悔しかったのだと。
そう言って目を細めて遠くを見る鬼男。
その脳裏には、おそらく彼の人の姿が浮かんでいるのだろう。
今この時、熱く焼けた銅を喉に通し、内臓を焦がし、冥界の罪を一身に背負うている人の姿が。
――自分たちとて、同罪だというのに。
なのに、冥界の王ばかりが罪を問われ罰を受ける。
こればかりは、どうすることも出来ないのだ。
もどかしくても、痛々しくても、黙って耐えるしかない。笑って戻ってくるあの人を、やはり笑顔で、何事もないように迎え入れるしかないのだ。
自分でさえこんな思いになるのだから、鬼男などどれほどの辛い気持ちを飲み込んで彼を待っているのだろうか。
毎日、毎日。
篁はもう一度、鬼男の足元を見下ろした。
この広い冥界の大地の中で、本当にほんの少しだけ、耕され種を植えられた地面を。
突然、篁は床に荷物を置き、おもむろに欄干に手をやって、ひょいっと飛び越えた。
ぎょっとする鬼男の前に着地すると、同じように踞る。
そして、土を手で掘り返し始めた。
「た、篁さん?」
「……うん、確かに。言われてみれば悔しいよね」
固い地面を、少しずつ柔らかくする。
根が、伸びますように。
花が、咲きますように。
「一人より、二人だと思わない?」
おどけて肩をすくめてみせると、戸惑っていた鬼男がきょとんと目を瞬かせ、そして微笑んだ。
「……そうですね」
「もうさ、大王様が目んたまひん剥いて腰抜かすくらい、巨大な花畑作ってやろうか。こっそり」
「あはは」
忙しい日々だけれど、二人でやれば水撒きもできるし、少しは花も育つだろう。
(二人だけの秘密ってのも嬉しいし)
篁は密かに笑う。
いつか、ここには花が育ち、見違えるようになるだろう。そ
うしたら、この場所を見て、閻魔はどう思うだろうか。
驚くだろう。喜ぶだろうか。それとも、自分に黙ってこっそり二人で作業をしていたことを怒るだろうか。
(焼きもちやきだから)
その時の顔を思い浮かべると、少々意地悪な気持ちも加わって、わくわくした。

冥界の、ほんの一画。とてもささやかだけれど、鬼男がその手で花を咲かせてくれた。
口ではなんだかんだ言っても、きっと喜ぶだろう。
その日の為に、今また一粒、ここに花の種を植える。


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