目を開くと、一面青の世界だった。
水の中だ。
ビックリして大きく開いた口から、ガボボッとたくさんの空気の泡が溢れた。
(うわあっ 溺れる!死んじゃう!!)
苦しい、苦しい、息ができない。
どうして水の中に、とか。
死んだらどうなるんだろうとか。
そういうごちゃごちゃした考えは何も思いつかなかった。だってもうパニックで。
とにかく、ギュっと目を閉じて、手で口を押さえて空気が漏れるのを抑えたけど、もう無理だ。
苦しくてしかたない。
ああ、まだ若いのに…溺れて死ぬなんて何てことだ。
「落ち着いて」
そのとき、ふいに耳元で穏やかな声が聞こえた。
人が溺れかけてるのに、なんてのん気なんだろう。落ち着いていられるはずないじゃないか。
しかし、その声はなおも続ける。
「大丈夫だから。息をして。ほら、深呼吸」
こんなとこで深呼吸したら死は確定だ。
でも、息を止めるのにももう限界で、私はもういいや!と思い切って鼻から息を吸い込んだ。
ノドを、冷たい水が通り抜ける。
けど、それだけだった。
(………………あれ?)
むさぼるように、ゼエゼエと息をする。
ドキドキしていた心臓が、ちょっとづつ落ち着いてくる。
水の中って息ができるものだっけ?そんなバカな。
ゆっくり閉じていた目を開いて。
私は、せっかく開始した呼吸がまた止まりそうになった。
眼前に広がる光景のせいで。
なんて……なんて綺麗なんだろう。
そこは、天国のようだった。
青く透き通った水。
天上から、光が絹のようにスッと降りてきている。
白い砂、色とりどりのさんご礁。
群れをなして、キラキラと通り過ぎる魚たち。
思わず景色に見とれていた私の耳に、クスクスと笑う声が聞こえた。
は、そういえばさっきの声は!?
慌ててキョロキョロ辺りを見渡すけれど、どこにもその姿はない。
「あれ?」
「ここ、ここ」
「へ?」
………………。
じーと私は声の主の姿を見つめた。
その子も、私をじーっと見上げて?きている。
見上げてに?がつくのは、その子がどこを向いているかいまいち分からなかったからだ。
だって魚だもん!
魚の正面顔は、どっち見てるのかよく分からない。
「え、あの、あなたですか?」
「そうだよ~俺」
魚が俺って言った!
っていうか喋った!
もう、何が起こっても不思議ではないのかもしれない。
その魚は、特に綺麗な魚だった。
純白に見えるような銀色のうろこ。長い、ひらひらとした透き通った尾ひれ。
そして、海を凝縮したような……綺麗な蒼の瞳。
「あ、そうか」
ふいに私は理解した。
「これは、私の夢なんだ」
「そうだよ」
魚が、パクパクと口を開けたり閉じたりしながら答えた。
「これは、君の夢なんだ。ミチハ」
サキカワミチハ。崎川充葉。
私の名前だ。
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