夢ならば、なんだか色々なことに納得できた。
特に、隣でプカプカ浮かんでついてくるしゃべる魚について。
魚は、自分を「ヤツキ」だと名乗った。
そして、なんかよくしゃべった。
「うん、戸惑うのも無理はない。けれど、俺がどれだけ君と話したかったかを知ったら、突然の親しげな態度も許してもらえると思うね」
「話したかった?」
「そうだよ、ミチハ」
私は、めったにないこの機会をせっかくだから楽しむことにした。
世界は美しく、目に楽しい。
私は半分泳ぐように、歩くように水中を散歩することにした。
「ミチハ、ミチハ。足元に気をつけて」
「ミチハ、さんご礁のさんごはね、イソギンチャクやくらげと同じ仲間なんだよ」
「ミチハ、疲れた?どっかで休む?」
……とにかく、魚はよくしゃべった。
割と口下手な私の夢にしては、よく口がまわる。しかも、変な知識までもっている。
私は、「うん」とか「へー」とかしか言えてないんだけど。
「ヤツキは、よくしゃべるね……」
「あ、ごめんな。うるさかったか?」
ちょっと心配そうな声を出されて焦った。
「え、う、いや、そんなことないよ。どうぞしゃべって」
「そうかい?」
そう答えたものの、ヤツキはそのあとしばらく黙った。
いかん、ちょっと機嫌を損ねたかな。
そっと顔を覗き込むと、
「俺はね、ミチハ。……実はちょっと……かなりうかれてるんだよ」
「そ、そうなの」
「うん」
浮かれてたのか。そうか。
魚の表情は、常に一定なのでよく分からない。
でも、確かに声はウキウキとした感じだった。
「どうして浮かれてるの?」
「君と会って話せたから」
「………どうしてそんな風に言ってくれるの?」
「俺は、」
魚が何か話そうとパクッと口を開けたとき、
「こんにちはー」「こんにちはー」
小さい、声が聞こえた。
「ん?」
見回すと、小さい熱帯魚の群れがさあっと横切っていった。
口々に、かわいらしい声で挨拶してくれている。
「わ、こ、こんにちは!」
「おっす」
私とヤツキが答えると、
「ひめー」「ひめー」「お元気ですかー」「お会いできてー」「光栄ですー」
小魚たちはくるくると私の周りを何周かすると、またさあっと行ってしまった。
「…………ひめ?」
「挨拶に来たんだな」
「姫って?」
「まあ、この世界ではミチハは姫なんだよ」
「ええええええええ!?」
そんな大それた称号をもらえるほどの者じゃないよ!
あわあわと手を振っていると、突然
ぐわん!!
と世界が揺れた。
「わ、何!?」
「夢が終わるんだ」
「え……」
そうか、もう起きる時間なんだ。
せっかくの美しい世界を離れがたく思って、私はちょっと寂しくなった。
「そっか…なんか、ざんね………え?」
ヤツキを振り返った私の目に映ったのは、魚ではなかった。
そこには見知らぬ青年がいた。
背が高く、白に見えるほどの銀色の髪。
澄んだ蒼の瞳。
その人は、私を見てニッコリ笑った。
「またな、ミチハ」
そして、私が口を開く前に……その世界は、どんどん暗くなって。
手の届かない場所に行ってしまった。
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