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日々たれながし
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修学旅行の出来事を話す夕士を穏やかな顔で眺めつつ、その実長谷の内面はまったく穏やかでなかった。
むしろ暗雲がたちこめていた。

(女生徒にナイフで襲われたうえ、悪霊に羽交い絞めにされただあ!?)

ギリッと歯噛みする。
俺の目の届かないところでそんな危ない目に合うなんて、怒りと焦燥と心配で脳がぐつぐつ沸騰しそうだった。
というか、本当は俺のいないところで夕士が楽しそうなのも嫌だった。
修学旅行なんてくそ面白くもない。
俺の見ていないところで、夕士が傷つくのも、楽しそうなのも、嬉しそうなのも気に食わない。
そんな顔を見せるのは、俺にだけでいいのだ、本当は。
(いっそ閉じ込めてしまえればいいのに)
そう思いつつ、顔は微笑みを浮かべる。
さも、夕士の語る思い出話を面白そうに聞いているように。
しかし、

「それで千晶がさ~」

ピクッ
思わず、口の端が引きつる。
千晶。
最近、しょっちゅう夕士の話に出てくる名前だ。夕士の担任の新任教師。
(千晶千晶ちあきと忌々しい……!!)
ほぼ毎日その名が出てくるのではないだろうか。

「……稲葉は、よっぽど千晶先生が好きなんだな」
「なっなんだヨそれ~」

なぜそこでほんのり赤くなる!!
そんな顔も可愛いが!いやそういう問題でなく!!

「なんだよ、照れんなよ」
そんな内面などおくびにも出さず、からかってみる。
「いや、でも千晶ってあんなカッコよさげなのに、以外と手がかかるんだゼー」

「だって、風呂にまで入れてあげたりしたし」

ビシイッ
長谷の持つ湯のみから異様な音がした。
具体的に言うと、何かがひび割れるような。
しかし、鈍感な夕士は気付かない。
「あれ、今なんか変な音した?」
「さあ~?なんかしたっけ?」
「んーラップ音かナ」
あはは~と和やかに微笑む二人を、
周囲の大人たちがニーヤニヤとたいへん面白そうに眺めているのだった。

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