日々たれながし
夕焼けの道を、二人で歩いた
あ、烏だ~
のんびりした声がして、ついイラッとする。
自分が彼の隣にいるとなぜだかモヤモヤグルグルとしているというのに、お前というやつは、という気分になる。
目を上向けると、確かに数羽の烏が夕焼けの空を飛んでゆく。
「かーらーすー、なぜなくの。ってね」
「………………………なぜ鳴くんですか」
「はあ?」
きょとん、とした目で見上げてくる。
「知らないの?」
反射的にそう聞いたのか、言った直後にしまったというようにツナの眉間に皺が寄った。
なんて分かりやすいのか。
「……日本の童謡だよ」
骸たちには、童謡なんて教えてくれるような存在はいなかった。
そのことを思い出し、自分の失言に瞳を曇らせる。
それが見たくなくて、
「確かにさすがの僕でもこんなアジアの矮小な島国の童謡なんて知りませんけどね。僕が日本語に堪能だからって忘れていませんか?そもそも僕は海外に住んでいたんですが。それなのにたったそれっぽっちの知識で自慢げにされても困りますね、どれだけ上から目線なんですか?ああ、分かりました、そうですよね。君が僕に知識で勝っているというのは経験の違いからくるそれくらいの問題くらいしかないですもんね、なけなしの上位を驕りたくなっても仕方がないと言えるかもしれませんね。どうぞどうぞいくらでも誇ってください、確かに烏だかなんだかの童謡の歌詞なんて存じませんから私めにお教え願いますか綱吉さま?」
「………………俺が悪かったです、ごめんなさいごめんなさいもうしません」
涙目になって謝るツナに、分かればいいんですと満足そうな息をつく骸。
「……それで、なぜ鳴くんですか?」
「えっとねえ」
ツナはちょっと照れたように口ごもると、
そっと歌った。
かーらーすー、なぜなくのー
からすはやーまーにー
骸は、目を細める。
小さな歌声が、
彼の歌声が。
耳に届く。
かーわいーい、なーなーつの子があるかーらーよー
かーわい、かーわいーとからすはなくの
かーわい、かーわいとなくんだよ
山の古巣へ行ってみてごらん
かわいい七つの子があるはずよ。
歌い終えたツナは、ちらりと骸を見上げた。
「………まあ、可もなく不可もなくといった感じですか」
「誰が歌唱力の評価をしろと言ったよ!!」
歌って損した!と憤慨するツナに、自然と口元が緩んだ。
「………おっ、お前は……なんか覚えてないのかよ、童謡でも子守唄でもなんでも……」
そう聞くツナの声が、
誰か一人でもいい。彼らに歌を歌ってくれるような人が。優しくしてくれた人がいたらいい。
そういうように、祈るように聞こえたので。
骸は無言で記憶を辿ってみた。
「……子守唄……なら、聞いたことがあるような気がしますが」
「ホント!?」
途端にぱあっと笑顔になるツナ。
聞いたことがある、といっても。
それは、マフィアへの復讐を重ねているとき。
子どもに憑依した骸が、そうとは知らずに子守唄を歌う母親から聴いたものなのだが。
その後、その子どもの体を使ってしたことは。
彼女を愛人にしていた男の属するマフィアを殲滅した後に、赤く染まった屋敷で。
子守唄を歌ってくれた代わりに、子どもの命と自分の命どちらかだけ助けてあげましょうと持ちかけたけれど、涙を流して命乞いするハハオヤに軽く失望して、やはりこんなものかと、全てを壊したこと。
そんなことを、目の前で明るい顔をしているツナには言えなかった。なんとなく。
「じゃあ、歌ってくれよ!」
「はあ?………イヤですよ」
「なんでー俺歌ったじゃん!不公平だろー!」
「僕たちの間なんて、もとから不公平なものじゃないですか、なんていうか顔とか頭とか存在とか」
「キーーーーーー!!?」
腹たつう!!というツナに、嘘ではない笑顔を向けて、
いつかね、と骸は言う。
いつか気がむいたら。
この手の赤が落ちることはないけれど、
せめて君には優しい歌を贈ろう。
歌だけなら、こんな自分でも、君にふさわしくなるかもしれないから。
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